厨二コンによる随筆的ブログ

コンサル、思考力や生産性、厨二

コンサルプロジェクトにおける7つの壁

戦略から業務、ITなどコンサルプロジェクトは様々。求められるスキルも違う。各プロジェクトタイプでどのような難所があるのかという”壁”を7つに纏めてみた。

「戦略」の壁

総合ファームで業務改革やシステム系のプロジェクトを経験したメンバが、初めての戦略系案件や戦略ファームに転職し、苦労する「戦略」の壁である。

「戦略の壁」は、情報が限定された中で、課題を特定して、目指すべきゴールを設定できる事ができるかどうかである。いわゆる論点・仮説思考、イシュードリブンの体現が求められるが、これをすぐにできる人は多くない。

生き残るためには企業変革、事業変革を実現するためのM&A、○○テーマで新規事業を立ち上げたいなど、戦略系PJは依頼時点では不明瞭なお題が多く、顧客に聞いても課題や答えは出てこない。コンサルファームが主導で、提案時点に論点と仮説を設定し、仮説を検証するため、市場調査、エキスパートインタビュー、顧客ヒアリングを実施する。クライアント側ともディスカッションするが、自由度が高いだけに、「どうすべきだ」という提案を強く求められる。

施策立案や実行計画のフェーズでは、〇〇事業での黒字化、〇〇費〇〇%削減、〇〇領域でのシステム刷新などのゴールが明確であり、その実現方法を検討・立案するケースが多い。システム開発では要件は顧客が決定するという考え方もある。

戦略系プロジェクトはその考えでは一切通用しない。自由度が高いだけに定型的な答えがある訳ではなく、工数を投下したからといって、付加価値の高いアウトプットができる訳でもない。投下工数と付加価値に相関関係がほぼない所が「戦略の残虐性」とも言える。数週間が現場が徹夜続きで作成したものが報告会前日にパートナーがひっくり返して作成したものの方が付加価値が高いという事はざらにある。

「実行」の壁

企業変革、新規事業、業務変革、新規システム導入など、どのようなタイプのプロジェクトでも最終的には実行しないと効果は得られない。実行前にNo-Goと判断するプロジェクトも多数ある。実行局面において、高単価のコンサルが支援すべきかの議論はあるが、近年、各ファームは、この実行局面まで支援を実施する事で拡大してきた。

実行局面は、机上の戦略、論理だけではない世界になる。様々な考え、モチベーションが違う人々を実際に動かしていく必要がある。そして、「人間は論理ではなく、感情で動く生き物である」という事を前提で捉えてない限り、成功に導く事はできない。実行支援PJでは、論理的に綺麗に纏まった資料作成より、駄話を含めたコミュニケーションの方が効果的な場合もある。

戦略局面は自由度が高く、必要資源も限定される。コンサル側は数人、クライアント側は経営の意思決定ができるメンバのみでPJが組成されるケースが多い。一方、実行局面は、目指すべき姿に向かって構築・導入していくので自由度は限定されるが、多くの人材や設備、資金など、戦略局面よりもより多くの資源が必要になる。

実行局面では、経営層から中間管理職、末端の現場レベルまで各レイヤーを巻き込むため、ファーム側も様々な部署に、各レイヤーにメンバーを張り付けさせ、クライアントメンバーと伴走させるプロジェクト体制を組成する。末端にアサインされたメンバーは全体像を理解していないと高級派遣社員的な動き方しかできなくなってしまうので注意が必要である。

「全社改革(事業&機能)」の壁

企業変革や全社戦略などの全社プロジェクトでは、総合格闘技のように様々な知識、経験が必要となる。経営統合するような大規模M&Aも同様なケイパビリティが求められる。大規模な企業変革だとプログラム管理、事業、組織・人事、業務、財務、ITなどの各PJに分け、PJ単位で各ファームを使い分けたりする。日本を代表する大企業の企業変革の場合、名の知れた多くのファームが参画するようなプロジェクトも存在する。

全社改革では経営そのもののケイパビリティが求められる。経営戦略は、事業戦略、機能戦略、財務戦略の3つの戦略から構成されている。
どの市場で戦い、誰を顧客として、どのような価値を提供するという事業戦略。顧客への価値提供を実現するために、必要なケイパビリティを定義し、そのケイパビリティを創出するための機能の最適化を設計する機能戦略。事業戦略や機能戦略を実現するために必要な資源を獲得するために、資金を効率的に調達・運用する財務戦略。

経営戦略コンサルタントなら財務戦略の知識を持っている必要があるが、財務戦略は資金調達の機能を持っている投資銀行が支援する場合が一般的で、コンサルファームは事業戦略と機能戦略の二つのアプローチから経営支援をする事が多い。

私は、この三位一体の経営戦略と表裏一体になるのが、企業価値をどのように定義するかだと考えている。事業戦略は顧客への提供価値、コンサル用語で言うなら「バリュー・プロポジション」である。機能戦略は従業員にとっての価値。優れた企業文化、業務オペレーションを持っている組織は、優れた人材を誘致し、引き留めさせる事ができる。財務戦略は株主にとっての価値であり、最終的には市場や売買において、金銭的価値として値段が付く価値である。

経営戦略は、各戦略立案や実行の経験を活かしたコンサルの醍醐味であるがゆえに、複合的なスキルが必要になる。大企業向けだとファーム側も大規模PJになり、ミドルクラスでも役割が限定され、全体を解像度高く把握する事が困難な場合が多い。案件としては限定されるが、売上が数百億円規模の企業の成長戦略(オーナー企業やPE買収でコンサルに依頼するケースがあり)は、経営に必要な知識や経験を獲得できる。経営戦略コンサルタントを目指すなら、このようなアサイン機会があれば、是非挑戦する事をお薦めする。

「事業戦略」の壁

新規事業立案や参入戦略などの事業戦略系は、組織・業務、ITなどの機能戦略系とは必要なケイパビリティや検討アプローチが異なる。事業戦略は、就活生や転職希望者が想像するような案件が多い。市場/競合分析の外部環境分析、ケイパビリティ分析などの内部環境分析を踏まえ、最終的には事業計画(プロジェクション)などの事業性評価に落とし込む。

  • マクロ的な動向やトレンドは?どの市場をターゲットするべきか?
  • ターゲット市場でどの程度の成長が望めるのか?何が成長促進の要因か?
  • 技術進化や規制で何が成長や変化のトリガーになるのか?
    どのタイミングで市場環境や構造がどのように変化するのか?
  • 市場に勝つために必要なケイパビリティは?
  • 競合各社はどのようなケイパビリティを持っているか?
  • 業界トップのA社はどのような機能設計で価値を創出・最大化しているのか?
  • 貴社のケイパビリティは?各競合他社と比較した強弱は?
  • 貴社にとって、競争力を高めたり、今後の市場変化に必要なケイパビリティは?
  • そのケイパビリティを獲得・強化するために必要なアクションは?

などの論点を設計し、論点に対して仮説を立て、仮説を検証していく事が求められる。機能戦略系は内部環境分析のナレッジはあるが、外部環境分析や事業計画などの経験を積む機会は少ないため、初めて事業戦略PJを経験する人は苦労する事が多い。また、ビジネスDDを中心に事業計画(プロジェクション)も含めたアウトプットでお作法ような業界標準がある。アウトプットで経験有無が明確に分かる世界でもある。

「オペレーション」の壁

事業を立上げ・運営や、組織・業務、ITの設計・導入などのオペレーション系も、事業戦略から見ると壁が存在する。機能戦略の立案、実行のオペレーション系は、企業の中で、カネ、モノ、ヒトがどのように流れて、成り立っているのかを現場で実感していないと、実行確度が高い支援を実現する事は難しい。”しみじみ感”という表現をする人もいる。

日本企業の場合、機能戦略は戦略立案よりも導入にこそ難易度が高まる。組織変更でポジションが変更するため、社内政治の駆け引きにも陥り易い。新規業務やシステム導入などで、現場からは変化に対する抵抗も多く存在する。

コンサル側は、工場・営業現場、経理・ITなどの業務オペレーションを理解し、推進するため、このようなプロジェクトでは重層的かつ多面的にクライアントを押さえる必要がある。結果、クライアントとコンサルメンバが併走する常駐型PJが多くなる。

「組織・業務設計」の壁

総合ファームで、システム開発案件が中心だったITコンサルタントが業務系PJにアサインされてぶつかる壁が「組織・業務設計」の壁である。

システム開発系PJはITの知識・経験があればワークするロールは存在する。ロールによっては、顧客とのコミュニケーションも限定される。一方、業務系PJになると、顧客の事業、業務を理解して、その事業・業務をどうすれば高度化できるのかなどの議論が求められる。事業や業務の事は顧客のが詳しいのは当たり前である。その中で、コンサルタントとして、どのように価値を提供するかを常に考えさせられ、自分を高めていく必要がある。

但し、他の壁に比べ、各業務とIT(特に業務アプリ領域)は紐づいているので、この壁は相対的に低いと考えている。ITコンサルタントが業務コンサルタントになる方が、業務コンサルタントが経営戦略コンサルタントになる方より、ハードル(ケイパビリティの差)は低い。実際、総合ファーム内におけるITコンサルタントと業務コンサルタントの垣根は曖昧である。

「IT」の壁

「IT」の壁は、パッケージ導入のシステム開発PJでも、新規サービス開発のデジタル系PJでもIT系プロジェクトは「モノづくり」である。故に、モノづくりの経験有無は極めて大きい。また、ITILなどで世界的に標準化が進んでいるので、知識も必要になる。どんなに頭が良い人でも、システム開発の経験と知識が豊かな人には敵わない。組織の競争力としては、自社内でオフショアも含めた大規模な開発部隊を持っている組織は強い。

ひと昔は、ITは業務を支援するものであり、コンサル業界の風潮として、ITはコンサルタントでないみたいな所があったのは事実である。但し、近年はテクノロジーが進化し、IT(近年で流行り言葉でいう「デジタル」)は経営の前提条件となっているので、どのファームも技術力を持った人を欲しがっている状況である。