私自身、”デジタル”という言葉が市民権を得る前の2010年前後から、「これからは”デジタル”の時代です。」と外資系ファームでグローバルトレンドなどを顧客に説明してました。良く内容を理解していませんでしたが。
当時は、皆で”デジデジ”ばっかだよと言ってましたが、ここまで社会に普及するとは驚いています。
実態として、”デジタル”も含め、”ビッグデータ”、”IoT”、”AI”、”SMACS”とかのキーワードは、コピーライティング的な要素が強いです。
グローバルIT企業は、「これからの時代はデジタルだ!」と世界に普及して、自分のビジネスに有利な市場に持っていくマーケティング力は日本企業にないケイパビリティだと思います。
本ブログでは、カスタム開発やパッケージ導入などの従来型システム開発とデジタル系と言われるDX(デジタルトランスフォーメーション)プロジェクトの違いについて、取り纏めました。
イメージ
人月ビジネスにおいて、イメージ≒マーケティングは重要です。例えば、システム開発におけるPMO(プロジェクトの全体管理をするチーム)でも、”SIer”、”ITコンサル”、”IT戦略”というように言葉が違うだけでイメージが全然違います。
”SE 新3K”で検索すると、「きつい、帰れない、給料が安い」の『新3K』のネタが盛りだくさんだと思います。
一方、AI、IoTなどのデジタル人材は新卒でも年収1,000万円や年収3,000万円で人材募集などの記事を見ると事ができます。
どちらも広義の意味では、システムエンジニア(SE)やプログラマー(PG)ですが、国内ではSEという言葉を使うか、AIやデジタルを使うかでイメージが違うのが現実だと思います。
ちなみに、米国を中心としたグローバルではSEは人気な職種です。給与なども他業種と比較しても高いです。日本のように、従来系システム導入系、デジタル系とかを上下ではなく、専門領域として区別しています。例えば、ERPパッケージのSAP導入SEの人達も皆さん、プライドを持って仕事をしています。コンサル対するコンプレックスもないと思います。
目的
エンタープライズ(企業向け)ITはビジネスを支援する領域から始まりました。銀行の勘定系システムや企業向けの基幹領域のカスタム開発です。90年代から、SAPやOracleなどベストプラクティスの機能・システムに業務を合わせるというパッケージERPが普及しました。
企業向けへの導入方法がカスタム開発かパッケージ導入の選択肢はありますが、最終的な目的は、「業務処理を構造(データ)化した上で効率化」。そのデータを「経営の意思決定のインプット」として活用する事です。会計処理の延長としてのシステムという言い方もできると思います。
一方、デジタル系は、顧客体験を含む業務処理の高度化及び、新規事業の創出が目的になります。大きくは、業務処理、顧客体験、ビジネスの3つのデジタル化に分類されます。
A.業務処理のデジタル化:コスト削減が目的。需要ドリブンでの供給最適化、営業員ルートの最適化、コールセンターでのチャットボット活用 など
B.顧客体験のデジタル化:売上拡大が目的。自動車のEC販売、O2O(Online to Offline)でのマーケティング施策 など
C.ビジネスのデジタル化:新規事業創出が目的。GEの産業向けIoTビジネス(Predix)、シーメンスの産業用ソフトウェアが代表例
新規事業の創出は分り易いと思いますが、効率化と高度化の違いは分かりづらいと思います。これは端的に”効果の差”です。
2000年のゴールドマン・サックスのニューヨーク本社では600人ものトレーダーが大口顧客の注文に応じて株式を売買していたそうですが、ゴールドマン・サックスのCFO(最高財務責任者)のマーティ・チャベス氏は、「2017年現在で本社に残っているトレーダーはわずか2人です。空いた席を埋めているのは、200人のコンピューターエンジニアによって運用されている『自動株取引プログラム』です」と説明
これは、データ処理のインプット、プロセス、アウトプットの技術が指数関数的に発展した事で実現されました。
A.インプット:センサー/通信技術の発達により非構造化データ収集が容易化
B.プロセス:ディープラーニングなどのAI技術の向上により高精度/高速処理が可能
C.アウトプット:スマホなどのモバイルデバイス普及、AR/VRなどでの多様化
顧客要望
従来型システム導入では、顧客の要望は”QCD”と明確です。「高い品質(Q)、安い価格(C)、 安定したデリバリー(D)」です。提案時点でのベンダー選定でもこのバランスが重要になります。
また、方法論も既に標準化されています。ITサービスマネジメントにおけるベストプラクティスをまとめた「ITIL (Information Technology Infrastructure Library)」やプロジェクトマネジメント知識体系ガイドである「PMBOK(Project Management Body of Knowledge」です。
一方、デジタル系の案件は、顧客が何を実現したいのか、どのソリューションを使うのかが分かっていない場合が多いです。ゆえに、コンサルやSIerに求められるスキルは、顧客の要望を聞くのでなく、解決すべき課題ややるべき事を決める「顧客の課題定義」です。そして、その課題を実現するために、最適なソリューションを選定することが求められます。
技術の進化により多くのソリューションが市場にあるため、多くの顧客は「ソーシング(目的を実現するための最適な仕様や条件)」にも悩みを抱えています。
収益モデル
従来型システム導入では、パッケージなどのソフトウェアでは「ライセンス契約」が主流です。例えば、導入時点で100万円/1ラインセス発生し、その後、保守サポート費として、2~3割の費用を毎年契約するモデルです。
システムインテグレーター(SIer)は「人月モデル」です。人月単価×人数の世界です。人月単価が顧客に請求する単価なので、利益が乗っています。この人月単価の差が戦略コンサル、業務コンサル、ITコンサル、SIerの差です。
システム開発の世界では、同じPMOでも1人月、国内SIerは100~200万円ですが、外資系ITコンサルは300~400万円になります。
一方、デジタル案件ではサービスは「サブスクリプション(従量課金)」が多いです。サブスクリプションとは、マイクロソフトのOfficeで数万円でライセンス購入ではなく、毎月支払いをするMicrosoft 365に変更になったようです。
また、「成果報酬モデル」の場合もあります。例えば、コスト削減プロジェクトでコスト削減した成果の一部を報酬としてもらうモデルです。
しかし、実態として多く見られるケースは、「デジタル戦略」と称して、人月400万円以上の高単価コンサルタントが綺麗な絵を書いたり、「デジタル系新規事業支援」という売上/利益がほとんどない事業に何人ものコンサルタントが常駐したりするケースです。この状態が現在のコンサルバブルを引き起こしている要因の一つでもあります。
開発手法
従来型システム開発は、ウォーターフォール型で中長期です。大企業の基幹システムなら2~3年ぐらいになります。みずほ銀行のシステム統合は19年にもなります。SI業界で話題になった「みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史 史上最大のITプロジェクト「3度目の正直」」の本を読むのも良い思います。
ウォーターフォール型とは、1.要求定義、2.外部設計(概要設計)、3.内部設計(詳細設計)、4.開発(プログラミング)、5.テスト、6.運用の作業工程(局面、フェーズ)にトップダウンで分割する。線表を使用してこれらの工程を一度で終わらせる計画を立て進捗管理をする。原則として前工程が完了しないと次工程に進まない事で、前工程の成果物の品質を確保し、前工程への後戻りを最小限にする。ウォーターフォール・モデルの利点は、工程の進捗管理がしやすいことである。
一方、デジタル系案件はアジャイル開発で、短期のサイクルを繰り返し、サービスの品質を向上させるのが主流です。最初から完璧なサービスの完成を目指すのではなく、やりながら、品質向上を目指します。
アジャイル開発手法の多くは、反復 (イテレーション) と呼ばれる短い期間単位を採用することで、リスクを最小化しようとしている。 1つの反復の期間は、プロジェクトごとに異なるが、1週間から4週間くらいであることが多い。アジャイル開発手法においては、開発対象を多数の小さな機能に分割し、1つの反復 (イテレーション) で1つの機能を開発する。そして、この反復のサイクルを継続して行うことで、1つずつ機能を追加的に開発してゆくのである。
人材要件
目的や開発手法から、従来型システム開発では、計画通り実行する人材をマネジメントする事が求められます。人材要件としてはも計画通りのパフォーマンスを発揮できる人材が大量に必要になり、「均一性」が求められます。
また、チームは、計画立案や全体管理を実行する管理チームと計画通り実行を推進する実行チームに分かれます。
一方、デジタル系は、ビジネスプロデューサー、プロダクトデザイナー、システムエンジニアなど新規のビジネス/サービスを構築する上で必要なスペシャリストが集められチームを組みます。
各領域のスペシャリストのコラボレーションによりチームでパフォーマンスの最大化が求めれます。
管理思考
従来型システム開発における管理思考は「標準化と 最適化」です。開発手法などは標準化することで、どの地域の誰が対応しても同じパフォーマンスを発揮できる事を追及します。
また、単体テストの実行など単純な業務は単価の低いメンバに、全体計画策定など付加価値の高い業務は単価の高いメンバにと、需要と供給の最適化を志向します。
一方、デジタル系は、サービスなどを研ぎ澄ます事を志向します。”100人のLikeより1人のLoveです”。特に、BtoC向けのサービスなどを構築する時はよりこの傾向が強くなります。
プロジェクトやチームとしても、1人のカリスマ的な天才がいて、カルト的な雰囲気のがより良いサービス/プロダクトを創出できると思います。イーロン・マスクとテスラ、スティーブジョブズとアップルのような関係です。
おすすめの本
30分でビジネス、技術の概要を掴みたい人におすすめする本です。小難しい本よりわかり易く纏めてあります。
半日ぐらい時間をかけて、本質を理解したい方におすすめする本です。IoT/AIに関する論文を纏めてくれています。論文も一つ一つは短いので、半日もあれば、両方読めると思います。
具体的なDXプロジェクトの担当になった人達におすすめする本です。デジタル案件における基本的な考え方やアプローチを押さえることができます。
一般的な定義
参考までに、「IT」「デジタル」「デジタルトランスフォーメーション(DX)」のウィキペディアからの引用を載せときます。正直な所、研究者でない限り、この言葉の定義に意味はあまりないと思います。
IDCやガートナーなどの市場調査会社などは、デジタル市場の市場規模を算出していますが、各社のIR資料や各社に「何割ぐらいがデジタル系ですか?」とヒアリングして算出している数字です。製品と違い、市場区分で明確な定義がある訳ではないです。
情報技術(英: information technology、IT)とは、情報を取得、加工、保存、伝送するための科学技術のことである 。
米国のITAAの定義では、コンピュータをベースとした情報システム、特にアプリケーションソフトウェアやコンピュータのハードウェアなどの研究、デザイン、開発、インプリメンテーション、サポートあるいはマネジメントである。
デジタル(英: digital, )とは、整数のような数値によって表現されるということ。工業的には、状態を示す量を量子化・離散化して処理(取得、蓄積、加工、伝送など)を行う方式のことである。
今日のコンピュータの主流であるデジタルコンピュータでは、0と1だけしか使わない二進法を物理的な表現形式として用いるので、デジタルは「0と1の二つだけしか無い」「0か1かの二択」「2でしか割り切れない」という定義・解釈がよくなされる。
デジタルトランスフォーメーション(DXDXの用語は、2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱した。
彼は「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」と定義し、下記の特徴を提示している。
・デジタルトランスフォーメーションにより、情報技術と現実が徐々に融合して結びついていく変化が起こる。
・デジタルオブジェクトが物理的現実の基本的な素材になる。例えば、設計されたオブジェクトが、人間が自分の環境や行動の変化についてネットワークを介して知らせる能力を持つ。
・固有の課題として、今日の情報システム研究者が、より本質的な情報技術研究のためのアプローチ、方法、技術を開発する必要がある。